マルの思い出

その子は、気が付くと我が家の庭でくつろぐようになっていた。

少しやせ気味で目の上に丸い眉の乗った子で、最初は「麻呂」と呼ぼうと思ったのだが、それでは可哀相だとの娘の主張で「マル」と呼ぶことにした。

マルは、どこにでもいる雑種の野良猫だ。

おとなしくて臆病だが、最初にやって来た時から人間には懐いていたので、どこかで飼われていたのかもしれない。

玄関のドアを開けると、ニャアと鳴きながら当然のように入ろうとするので、優しく抱き上げて外に戻してやると、少し不満げにまたニャアと言う。

外の餌皿にフードを入れて見守っていると、お腹が空いているだろうに、こちらへやって来て足元にすり寄る。

しゃがんで頭をなでてやると、前足をかけてよじ登ろうとしてくる。

仕方なしに抱っこしてやると、耳元で盛大にゴロゴロと喉を鳴らすのだ。

そんな人懐っこいマルは、私だけではなく妻や娘にも人気で、外飼いから室内飼いにしようという気運が高まりつつあったある日、我が家の庭から、忽然と姿が消えた。

元々、猫とは気ままな生き物。

たまには遠くに足を伸ばしたり、強い猫に追いかけられてしばらく雲隠れすることはあるものだが、1週間が経ち、2週間を過ぎても、あのひょうきんな麻呂眉はどこにも見つからなかった。

庭の片隅に転がる空っぽの餌皿を見る度に、マルのことを思い出す。

人懐っこいあいつのことだから、猫好きの誰かに拾われたに違いない。

今頃は、安全な家の中で、優しい飼い主に頭をなでてもらっているに違いない。

きっと、幸せに暮らしているに違いない。

だがな、マル。

どうせなら、いなくなる前に一言ニャアとくらい言ってほしかったよ。

いつか帰ってくるんじゃないかと、餌皿をいつまでも片づけられないじゃないか。

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